ミクロネシア連邦チューク州における日本伝統治療(柔道整復術)
普及プロジェクト初動調査報告
1.調査の目的及び内容
(1)調査の経緯
独立行政法人 国際協力機構広尾センター(以下JICA地球ひろば)の組織力アップ!NGO人材育成研修のSTEP3海外現地調査の一環としてミクロネシア連邦チューク州において現地調査を実施した。
本研修は国内外で今後活躍するNGOスタッフの人材育成を通じ、団体の組織強化を支援することを目的としており、目標とする人材像として、@草の根レベルでの効果的なプロジェクト実施を担える人材、A地域や社会の期待に応えるNGOとして、団体の安定した活動基盤を築くことのできる人材、これら目標とする人材育成を通じて、組織の課題を解決する、組織力強化に繋げるため、プロジェクトマネージメントコース、組織マネージメントコースの2コースがあり、当会はマネージメントコースを2名受講した。今後、様々な国に対して、柔道整復術普及プロジェクトを公益法人日本柔道整復師会(以下、日整)として実施するためにマネージメントコース受講者2名(本間・根來)並びに日整国際部より1名(田澤)の合計3名で上記現地調査を実施した。
(2)調査目的
ミクロネシア連邦は文化の異なるコスラエ・ポンペイ・チューク・ヤップの4州からなり、人口は102,624人である(2010年国勢調査)。ミクロネシア連邦では医学系大学の設置がなく、医師不足が深刻な問題であり、対応の難しい患者はフィリピン、グアム、ハワイなどへ移送することが多いとされている。チューク州は比較的大きな11の島を含む約290の小島で形成されており、約40の島で人々が暮らしている。そのうちウエノ島に約54,000人が暮らしている。
2010年7月14日には、ミクロネシア連邦チューク州女性協議会(以下、CWC)と日本政府との間で草の根・人間安全保障無償資金協力案件で女性の地位向上を目的とした「チューク州女性自立多目的施設建設」の贈与契約の締結が行われている。この施設は、女性がジェンダー、家族、健康、文化、環境などの多様な問題を話し合い、行動を起こす場として期待され、さらに手芸品などの技術研修や健康促進の場として使われる予定になっている。2011年11月25日に1階部分が完成し、上記の活動を実施しつつある。
写真1.チューク州女性自立多目的施設 |
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写真2.日整より記念品贈呈(額縁) |
CWC(http://www.cwcfiinchuuk.org/index.html)は1984年より活動を開始し、1991年より現在の形態で健康・教育活動を行っているNGO団体である。ミクロネシア連邦で柔道整復術を効果的に普及させて行くには、CWCの協力を得て、現地の医療状況の把握ならびに現地ニーズに対してインタビュー手法による聞き取り調査を行うことが重要であると考え、現地調査を実施した。
(3)主な活動内容
@CWC・チューク州政府環境局との打ち合わせ(スケジュール調整を含む)
A(公社)日本柔道整復師会のモンゴルにおける活動報告ならびに、CWCの活動報告
BCWCメンバーに対するインタビュー
CCHUUK
STATE GOVERNMEN(チューク州知事JOHNSON S.ELIMO氏)に対するインタビュー
Dケガをしたことのある地域住民(ウエノ島・トノアス島・フェファン島)に対するインタビュー
E養護施設教諭に対するインタビュー
Fチューク州立病院勤務医師に対するインタビュー
Gパブリックヘルス(保健所)でのインタビュー
H伝統医療従事者に対するインタビュー
I学校教員に対するインタビュー(青年海外協力隊員も含む)
JCWCメンバーに対してのケガに対する応急処置セミナー開催
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写真3.ケガをしたことのある地域住民に対するインタビューおよび確認 |
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写真4.Tonoas島Enin地区、Nukuno地区住民に対するインタビュー |
2.実施協力機関
(1)現地
@CHUUK
VISITORS BUREAU(ミクロネシア連邦チューク州政府観光局)
Director
Mason Fritz
Administrative
Orricer Nely Mori Ruben
通訳 笠原 貴江
ACHUUK
WOMEN’S COUNCIL
PRESIDENT
CHRISTINA “KiKi”STINNETT
その他 女性協議会メンバー
具体的な役割:現地調査に必要な情報収集、提供を行う。
(2)日本
駐日本ミクロネシア連邦大使館(ジョン・フリッツ特命全権大使)
具体的な役割:現地との調整を中心とした活動サポートを行う。
3.初動調査概要
(1)期間
平成24年1月22日(日)〜2月2日(木)
(2)場所
ミクロネシア連邦チューク州ウエノ島・
トノアス島・フェファン島
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4.ヒアリング結果
CWCメンバーに対して、骨折など外傷に対する対応についてのインタビューを行うと、固定材料にバナナやココナッツの皮を乾燥させて使用することが多く、柔道整復術の特徴でもある身近にある物での固定を行っていることが判明した。
地域住民対象のインタビュー結果より、伝統医療従事者は様々な種類があるが、骨折・脱臼などの外傷に対しての治療はローカルボーンセラピストに受けることが多いことが明らかとなった。これは、地域のコミュニティーの中で親類など血縁関係者にローカルボーンセラピストがいる場合が多く、身近に治療を受けられる環境にあることならびに、チューク州立病院があるウエノ島までいくことが交通手段などの問題で、困難であることもローカルボーンセラピストに受診する大きな要因を占めている。
学校の教員にインタビューする機会を得て、子供達が学校内でケガをした場合の対応のインタビュー結果より、学校(教員)は何も応急処置をせず、保護者に連絡または、教員が家までケガ人を連れていき、病院かローカルボーンセラピストに受診の判断は保護者が行うことが明らかとなった。
教員ならびに保護者に対して、ケガに対する応急処置の重要性についてセミナーなどを通じて行うことが、ケガの後遺症などで苦しむ患者を減少させることに寄与すると思われる(写真5,6)。
現地活動に際して、外部からの働きかけではなかなか上手くいかないことが多く、CWCのメンバーの様に地域コミュニティーに根付いた人からの協力が不可欠である。
写真5.CWCメンバーに対する調査報告 |
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写真6.応急処置セミナー |
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